東北南部/飯豊・本社ノ沢 [山スキー]

 

1. 山域・メンバー

山域・山名 東北南部/飯豊・本社ノ沢
ルート 大日杉~地蔵岳~大又沢出合~本社ノ沢~東尾根~飯豊山神社、往復
地図 飯豊山・岩倉(1/25000)
山行内容 山スキー
メンバー (L)渡辺 (峡彩山岳会)

2. 行動記録

記録 渡辺
日程 2010/05/10 曇り時々晴れ
タイム 5/10 大日杉5:10~地蔵岳7:40~本社ノ沢出合8:20~本山小屋11:30-12:20~本社ノ沢出合12:40~地蔵岳14:05~大日杉15:35

報告

GWは切合せ小屋をベースに飯豊を満喫したが地蔵岳から本山を眺めて、改めてそこからダイレクトに降る本社ノ沢(おむろのさわ)へ行きたいと思った。近年では西川山岳会や東北アルパイン日誌さんの記録が有り、大日杉の林道が開けば1日工程で行く事も可能のである。

コースは大日杉から地蔵岳越しに大又沢に降りて、そこから本社ノ沢出合に取付く。沢中からは適当な所で左岸尾根(以下、東尾根)に逃げて本山小屋を目指す。帰路は小屋から本社ノ沢右又を滑るか、一王子から左又を滑る事も可能であり、どちらも二股で合流する。本社ノ沢からは往路を戻る。即ち大又沢を経由して地蔵岳を登返し、あとは大日杉へと戻るのである。

大又沢は積雪量と時期に依っては水線が開き、本社ノ沢も東尾根に取付くまではブロック崩落の恐れがある。滑りは石転び沢上部ていどの斜面と思われ、私の技量でも転ばないように、とだけすれば問題ないと考えた。(コケるとどうなるかは、焼山で体験済み)

今年はトラブル(板折れ、転倒、スラフに流され、・・・)が山行で多く、沢中の状況と上部ブロックをポイントとして、結果はどうであれ、まず無事に帰る事を第一にと思って出掛けた。

大日杉~地蔵岳~本社ノ沢~本山小屋

先週に続いて大日杉を訪れた。雪解けは進み、もう駐車スペースには苦労しない。ザンゲ坂の中間にデブリを見る。これも「一歩間違えれば・・・」と云う位置と規模で、出だしから身が締まるのであった。

鎖場を越して尾根筋に出ると新緑にタムシバが開き始め、この1週間で相当の雪が解けた事が判る。出だしのデブリやら想像以上の融雪を見たので、大又沢が悪場でもその時に判断を誤らないようにと「撤退」をイメージしたりして歩いた。

長之助清水の水音を聞いて御田で一本を取る。白川対岸の五段山方面は、下部に幾分のデブリが有る様子だった。騙し地蔵の登りから雪が繋がり、所々に週末のシュプールを見る。若しかして、本社ノ沢に入ったのかも知れないと思った。地蔵岳への登りは既に縦溝の斜面で、帰路の楽しみは無い。三角点に出て本山とご対面、本社ノ沢の右又に2本、左又にも1本のシュプールが有った。両又とも快適そうでだが、右又はノドの辺りが荒れている様に見える。ここでもデブリは概ね下部だけで、これで滑りの方は問題ないと判った。


本社ノ沢

 地蔵岳でスキーを履いて地蔵沢に降りると、まだ日射の当たらない固斜面は縦溝が惨く、殆ど横滑りで降りた。勿体無かったが今日は安全第一だし、地蔵岳の縦溝を見て覚悟は有ったのか気にはならない。下降中に左岸の支沢から登りの坪足トレースが合流して、やっぱり本社ノ沢へ行ったかと思う。その先の右岸の支沢から1箇所だけデブリが出ていた。帰路はこの沢を登返すのだが、デブリも現時点ではさほどでは無いと思えた。

さあ、いよいよ大又沢の出合。この中がどうなっているか、GWの山行が終わってからずっと気になっていたのであった。


大又沢上流のデブリ

 まずは大丈夫。水線に凹みがあるが、充分な積雪で埋まった沢は1週間の悩みを吹き飛ばしてくれ、正直なところ安堵した。次に一段下がって上流を見る。S字ゴルジュと云う所だろう、物凄いデブリであった。行手にあんなのが有ったら進む気にはなれないと思う。これで気分に余裕が出来た。さてさて、沢底に行って下流を見るとするか。


大又沢下流は少し凹み始めた

 坪足の他にスキーのトレースもあり、今週末に3~4人が入ったらしい。最初の凹面で割れが有り、その割面からゴウゴウとした低い音が聞こえたが、雪は充分なので通過は問題ない。次の窪みはまだ割れてはいなくて側壁を通り、何度か本流を渡っていよいよ本社ノ沢出合が近付いた。

前方から水音がして来た。出合に着くと、その先で右岸からの地蔵岳の支沢が小滝を掛けて本流に落ちている。確認はしなかったが、そこは本流の雪も落ち込んでいる様子で、先は釜でも出ているのかも知れない。


大又沢下流は釜でも有りそうな雰囲気

 本社ノ沢はいきなり左岸のデブリが凄まじい。トレースはデブリの上方を歩いているが、気を付けていないともっと下を歩きそうな地形に思えた。


いきなりデブリで気が引き締まる

 ここまでは順調、沢割れのプレッシャーは相当に有ったので、もう8割方行けそうかなんて思っていた。シールを付けながらデブリを見る。ブロックの大きさは2~3mで、直撃なら致命傷は必至である。ここは東尾根の末端なので顕著な支沢がある地形でもない。現に目の前にデブリが有るのだが、これだけの物が出るとは想像しにくいと思う。

本社ノ沢は緩登始まり、下部は右岸からのデブリが多いように感じた。軽自動車くらいのブロックが一つ、右岸の落ち口らしい箇所が青白く割れており、「昨日のか」と思う。ただ緩登なので、これくらいの大きさで無いと流芯は越してこない様子で歩行コースに注意を払う。次第に水線の窪みが埋まり切り、沢が左折すると前方に二股が見えた。直ぐに左岸から支沢が入り、ここから東尾根に取付くのだと判った。


二股


支沢の取付、稜線が東尾根

 本社ノ沢の何処で東尾根に向かうのか少し気にはなっていたが、その沢を見上げた瞬間に判った。お山が「ここから上がれ」と言っている、と云うのは言い過ぎだけど。

支沢と言えども中は広く、ジグも充分に切れる。振り返ると地蔵岳が大きくなり、山頂からの地蔵沢の他に何本か下降ルートが有りそうだと思った。


地蔵岳を振返る

 そうなると今度は帰路の心配が始まった。沢割れは無いから残りはブロックが問題で、危険に晒されている時間は、滑走に比べて登返しの方が長い。どの下降(登返し)ルートが良いかと観察が始まり、目を凝らすが決定的なルートは無い様である。ただ、どの斜面でもまだ上ではデブリが出ていないと判った。そうとなれば気温が上がらない事を祈り、ムダの無い行動で早めに戻るのが最善と云う事で、東尾根への登りに戻る。

沢の詰めは急で、右手尾根に這い上がると東尾根の緩斜面が待っていた。其処から一登りで本山小屋が見え、尾根北側はブッシュが出るが、このままシールで行けそうである。


本山小屋(豆粒)

 曇りがちの空となるが、ブロックが落ちなくて良い、と都合よく解釈する。東尾根は広い尾根で傾斜も緩く、仮に滑っても充分に楽しめると思う。前方に本山小屋を望みながら、歩みが全て標高を稼いで行く気分も良かった。


本社ノ沢と地蔵岳

 小屋ピークの直下は藪が出ていたので源頭を横切り、アングルの変わった地蔵岳を見て帰路のコースを考えたりする。雪は小屋前まで繋がっており、なんと青空も復活した。


本山小屋

山頂~本社ノ沢~地蔵岳~大日杉

神社に手を合わせて大日岳を見に行く。三角錐の本山も立派だが、目はGWに滑った駒形山を追っていた。大日側は風がやや強かったがベンチに戻ると無風となり、足元に雪が解けた水が溜まっていた。困った事に、ビールを冷やすには好都合すぎる。


大日岳

 登返しのデブリが、早めの行動が、・・・状況には逆らえずに休憩タイムとなってしまう。地蔵岳から大丸森山のラインを見たり、シールを干してみたり、宝珠山を見に行ったりと、至福の時間であった。デブリは概ね標高1200mくらいからで、局所的には例外もあるが全山で同じような傾向である。もっと斜面の方角に依って違うのかと思っていたのでこれは意外で、短絡的かも知れないが、地蔵岳の登返しも後半は比較的安心なのかと思った。


朝日連峰

 充分に山頂に堪能した。何時もならこれからの滑りがメインディッシュだが、今日は沢割れ・ブロックの気遣いと、本山からの景色も見た所為なのか、もう腹八分目であった。後は滑落せずに滑れれば、それで充分だ。

最初は緩く始まり、一直線上に本社ノ沢の出合が見える。石転び沢で出合を見た感じに似ているが、違いはその先に地蔵岳が鎮座している事だ。雪質は申し分無く、いよいよ最大傾斜面に差し掛かる。当然ここから突っ込んでスピードに乗る所であったが、今日は既に腹八分目であり左の沢に逃げた。こちらは最初が急で段々と緩む沢なので、最初から全貌が判って精神衛生上に良い。(滑落してもどの辺で止まるとか、少なくとも岩には当たらないとかが判る)

素晴らしい広さと傾斜で、石転び沢の上部(北股沢出合の上)の斜面が続く。もうこうなると腹八分目だろうが何だろうが、今の滑りを楽しむべしとなった。前半の斜面を終えると沢地形となるが傾斜は緩まずで、従って快適さも継続中。やや重雪となり、デブリが出てきた。


本社ノ沢 中部

 地蔵岳からでも見えた二股上流のデブリは、既に軟雪で事なく通過出来た。ただここは滝が有りそうなので、クラックが出ると通過に悩むと思う。


右股のデブリ

 出合まで上部ブロックに気を付けて滑り、スキーを担ぐ。あと1時間も歩けば危険地帯を抜けられる。下降で見た坪足トレースを追うか迷ったが、自分が下降した沢に高みを歩ける雪が繋がっていたので朝のコースを戻る事にした。ここまでブロック崩壊の音を聞いておらず、今日は青空が出たり曇ったりと、気温がさほど上がらず条件が良かったのかも知れない。

沢中と尾根の雪が完全に繋がり稜線が近い事を知る、もう安全地帯だ。ダケカンバの雪原に出て地蔵岳に上がり、本社ノ沢に自分のシュプールを見た。

素晴らしいコース、湧き上がる達成感。コースを開いた先人に敬意を表し、自分も行けた喜びを味わう。小屋からは2時間、この機動力、山スキーをやって良かった。

途中からシュプールは東尾根側に依っている。ヘタレの滑りだったかも知れないが、今日はこれで満足。次回は右又を真直ぐに、更には左又にも行きたい。大又沢でベースが張れれば楽だろうが、あの地形ではムリだろうなぁ。


騙し地蔵から また来よう

感想など

  • 全く以って素晴らしいコースです。スタート地点、滑りの斜面、景観と、連邦随一では無いでしょうか。大日杉への林道開通が早いのも嬉しいです。
  • 今回のヘタレシュプールは、次には描き直したいです。左又も良さそうでした。
  • 又沢~東尾根までは、何処からでもブロックが落ちてきそうです。神経を使いました。