1.山域・メンバー
山域・山名 | 川内山塊・灰ヶ岳 |
山行内容 | 残雪期登山 |
メンバー |
峡彩山岳会:吉川 日本山岳会:L大島 |
天候 |
4/9(土)晴れ 4/10(日)晴れ |
2.行動記録
記録 | 吉川 |
日程 |
2022年4月9日(土) 0600毛石山登山口 – 0800山の神 – 1100毛石山 – P907幕営地1500 2022年4月10日(日) |
3.報告
去年榛名黒岩に一緒に行った大島氏に声をかけていただき、女子2人で灰ヶ岳に行ってきました。当初は矢筈岳が候補に上がっていましたが、どうせなら静かな山行きがいいね!ということで、同じく川内山塊でもマイナーな灰ヶ岳を目指すことにしました。灰ヶ岳は川内山塊の主稜線からはみ出た、ちょっと変わった位置にあり、ただでさえ山深いこの山域の中でも特に登山者が少ないと言われているピークです。
出発前日、仕事が終わってスマホを見たら「仕事終わったら電話もらえますか」と副会長からメッセージが。聞けば登山届の内容を見て心配してくれたとのこと。灰ヶ岳周辺は尾根が複雑でひとたびガスるとルーファイが非常に難しいこと、稜線は凄まじい藪であること、そして夏道のトラバース道は残雪の詰まった沢筋を横切るので迷いやすいこと、などを丁寧に教えてもらいました。てっきり「まだおめさんには早いてば!」と言われるかと身構えていたのですが(笑)、最後には「気をつけて行かれ、レポート楽しみにしてっからね」とお背中を押してくれたので安心して山に赴けました。
1日目は朝6時に毛石山の登山口を出発。登山口に駐車スペースがないので、路肩の邪魔にならなさそうなところに路駐しました。出だしは小さな沢沿いの少しわかりにくい道を進み、開けたところに出たらその先の夏道(残雪がべったりついたトラバース道)は遠慮して、適当なところから尾根にとりつきました。この取り付きがなかなか急な藪摑みの登高で、歩き出し早々大汗をかきました。しかしひとたび尾根に乗ってしまえば薄い踏み跡と真新しい鉈目があり、意外にも最近も誰かが道を開いているような印象を受けました。
軽い藪漕ぎをしながら尾根伝いに進み、8時、小さなほこらがある「山の神」着。ここでようやく先ほど別れた夏道と合流しますが、この先も夏道はひたすらトラバースしていくので、我々は尾根を忠実に辿ることにしました。最初はうんざりしていた藪ですが次第に慣れてきて(?)、足元のイワウチワを愛でる余裕も出てきました。やがて標高550mを過ぎた頃から残雪が現れましたが、雪はよくしまっておりツボ足で快適。藪から解放されてブナの森を気持ちよく歩けば、ヤマドリ、野ウサギが目の前に飛び出してきたりして、静かだけど賑やかな春の森を感じました。
最後の急登をひと登りして、11時毛石山着。山頂からは飯豊から越後白山、銀次郎銀太郎など、下越の山々がずらりと並び、眺望が良いのでここでお昼に。ご飯を食べながら大島氏が日常の愚痴を面白おかしく言うので、わかるわかる!と首をブンブン。川内の深い谷に笑い声がこだましていました。
さて毛石山から急な登りは無くなりますが、細かくアップダウンを繰り返す稜線を雪堤・藪(わずかに踏み跡あり)を縫うように進まないといけないため、意外とペースが上がりません。季節外れの暑さにも悩まされ、途中で足が攣る場面も。当初幕営予定だった灰ヶ岳南東の1030m台地にはどうにも届きそうになかったため、稜線上の幕営適地を観察しながら進みました。今回はテントではなくイグルー泊をすることにしていたので、幕営地にはまとまった雪があることが条件でした。ところが稜線は雪の落ちた細尾根が多く、雪があったとしても厚みがなく、次第に藪中での野宿の可能性が濃厚に…。「さすがにそれは嫌だ〜、絶対イグルー に泊まりた〜い!」と両者見解一致し(笑)、結局遠目から白く見えていたP907まで頑張ったのでした。
P907直下はしっかりとした吹き溜まりとなっていて、イグルー泊には申し分のない場所でした。15時に到着ののち、早速イグルー制作に取り掛かります。イグルー初心者の私はYouTubeで見た程度の知識しかないので、経験者の大島氏の指示に従います。米山式と呼ばれるイグルーでは、なるべく大きく綺麗なブロックを切り出すことが肝要だそうですが、そもそものブロック切り出しにまず苦労しました。いろいろ実験してみたところ、(スコップでブロックを取り出すときに余計な力がかからないよう)ブロックの端までしっかりスノーソーで「切れ目」をつないでおくことが大事みたいです。また、うまく切り出せたはいいものの、残雪で作ったブロックが重すぎて持ち上げるのに苦労する、という問題もありました。結局2段目まではなんとか作ったものの、それ以上はブロックが壊れたり、重すぎたりして、天井を作ることができず、2人用ツェルトで上を塞ぐことで妥協しました(気温が高い場合は屋根なしが正解の場合もあるようです)。
イグルー内部はとても快適で、狭ければ適当に横穴を広げることができ、その掘り出した雪で水が作れたりする便利さに驚きました。テントとはまた違った楽しみ方ができそうです。夕飯は野菜と肉、水餃子をたっぷり入れた鶏白湯鍋。就寝時には入り口はタイベックシートで塞ぎ、壁に適当な棚を掘っていらないものを片付けました。
夜中の2時くらいだったでしょうか、天井のツェルトがはためく音がうるさいなあとウトウトしていたら、真横から大きな音と大島氏の悲鳴が。びっくりして飛び起きると、大島氏がイグルーブロック2つの下敷きに!慌ててブロックをどかしましたが、幸い怪我はありませんでした。聞けば、溶けかかったイグルーブロックがばたつくツェルトに押されて落ちてきたそうで、少し前にも1個落ちてきていたとのこと(合計3個の下敷きになっていた)。1個目のときに熟睡していたことを申し訳なく思いつつ、これ以上落ちてきそうな感じはしなかったので、起床予定の4時までそのまま寝ることにしました。ところが無事に朝を迎えたと思ったのも束の間、今度は朝食中に私の背中にブロック崩落。修復するのも面倒だったので、そのままオープンテラスの朝食会場になりました…。
5時30分、不用品を穴(元マイホーム)にデポして灰ヶ岳へ。ここまではなんだかんだ藪の中に踏み跡を見つけることができていましたが、P907から先は踏み跡が全くなく、雪が拾えない場所は完全な藪漕ぎとなりました。特に稜線から灰ヶ岳方面へ別れた後は雪の落ち切った痩せ尾根で、下界では口にしないような悪態(笑)をつきながら山頂へ突き進みました。6時50分、ようやく念願の灰ヶ岳山頂に到着。裏白山、裏粟ケ岳、青里岳、五剣谷岳、飯豊、守門、浅草が朝日に照らされて輝き、マイナー峰とは思えぬほどの大展望でした。道のりの険しさも相まって大変な達成感でした。
帰りはBCスキーヤーでもある大島氏の提案で谷通しでP907へ。クラックに気をつけながら、シリセードにて高速下山(登りはあんなに藪に苦労したのに・・)。P907鞍部で登り返し、デポ品を回収し、7時30分下山開始しました。
この日は前日よりも気温が高く、まだ午前中というのに汗が止まりません。時折ブナに抱きついたり雪にダイブしたりして、なんとか暑さを紛らわしながらアップダウンを超えていきました。毛石山より先では標高を一気に下げるため、さらに暑さが厳しくなりました。往路では尾根を辿ったところも登り返しが面倒になり、「雪も緩んでいるだろうし、夏道通りトラバースしよう」と相談して決定。ところが夏道を辿ってみるとかなり貧弱な道で(人の足幅ほどしかない)、ひとたび残雪の下に隠れてしまうとその先がよくわからない状況でした。特に沢を横断する急斜面では1ヶ所かなりわかりづらいところがあり右往左往。ここでは大島氏が急な箇所を偵察してくれて続きの道を無事発見することができましたが、副会長からの事前の忠告通りルート取りは安易に変更すべきではなかったと反省しました。
最後は藪の急斜面を駆け下り、15時に登山口に戻りました。私は今回初めての川内でしたが、静かで山深いロケーションは、自分たちの技術と向き合えるような感じがして大変魅力的に感じました。またいつか矢筈や青里、五剣谷も訪れてみたいです。